ロバート・キャパとサイゴン 1
1925年建設された、サイゴン(現在のホーチミン市)の歴史的なホテル、マジェスティクホテルは、例えば日本人で言えば開高拳や、写真家の沢田教一など多くのジャーナリストや作家が宿泊し、屋上のバーに集った有名なホテルだ。
僕が初めてベトナムを訪れた1994年は改修中で泊まることができなかったが、翌年1995年には念願かなって宿泊した。館内で何度も撮影をしているが、年々、サイゴン川の大型船の往来や(特に深夜)、バイクや車の騒音で、何日も連泊すると、うるさくて眠れない状態が続き、最近は宿泊することがなくなっていた。
ところが、この有名なマジェスティクホテルに、ロバート・キャパも泊まっていたという事実を僕は突き止めた。
1954年4月、キャパは毎日新聞社、カメラ毎日創刊の招待イベントとして日本に滞在していた。日本各地を撮影するといったかなり自由な、そして歓待された旅だった。それは約6週間の充実した撮影旅行の予定だった。
ところが、旅の半ばの4月28日、アメリカのグラフ雑誌ライフより、同じ東洋の戦場、フランス植民地だったベトナムの取材を急遽依頼された。キャパは悩む。しかし結局インドシナ、ベトナムに5月1日旅立つことになる。
キャパはまずバンコクに向かう。この辺のくわしいことは、「ロバート・キャパ最期の日」を読んでもらうとして、僕はそれまでの定説だった、キャパの伝記に書かれている、東京からバンコクに向かい、そこでベトナム入国のビザを取るために1週間以上もバンコクで足止めをくらったと書いてあることにつねづね疑問を感じていた。バンコクから直接ハノイに、ディエンビエンフー陥落の翌日、5月9日にハノイに到着したと書かれているのだ。
たしかにキャパは、バンコクのオリエンタルホテルから母ユリアに手紙を書いている。そこから9日、ハノイに到着して、マグナムに連絡するまでの約10日間、いったいキャパは何をしていたのだろうかという疑問だった。ベトナム北部デルタ地帯や、ディエンビエンフーは戦闘状態だとしても、タイのバンコクからフランス内独立国カンボジア、そしてサイゴンまでならば陸路だって移動可能だ。それなのに一週間以上も、バンコクにキャパが滞在した根拠はなんなのだろうか。日本の滞在中のイベント満載のハードのスケジュールに疲れて、バンコクでのんびりとビザが発行されるのを待っていたとでもいうのだろうか。この一週間を僕はずっと幻のバンコク滞在と位置づけていた。どうかんがえたってミステリーだ。
しかしある日それが氷解した。「ロバート・キャパ最期の日」のゲラ校正をしているとき、インドシナにおける、キャパの約40本のコンタクトプリントを見る機会があったのだ。そしてそこに、一葉の特別なコンタクトプリントをみつけた。それは、絶対にハノイでは撮ることのできない景色、サイゴンを知っている人間だったら容易に発見することができる景色だ。そのコンタクトの約30コマの写真のなかに、あきらかにサイゴン川を高いビルの位置から撮影している写真があったからだ。さらにくわしくみると、ドンコイ通り(カティナ通り)から、遠くにコンチネンタルホテルが写っている写真を発見した。サイゴン川を撮るアングルには、マジェスティクホテルがある。ロバート・キャパは室内でも撮影している。床のタイルは、現在はまったく失われているが、かつてはマジェスティックの床の模様だ。
上の写真は、ロバート・キャパ撮影した、サイゴン川と同じ場所から撮影したもの。キャパは、16カットのサイゴン川の写真を撮っている。現在のスイートルーム404号室のベランダから撮ったもようだ。この部屋には、僕は何度もとまったことがあった。今までキャパが泊まった部屋(ここから写真を撮っているが、この部屋に泊まったかどうかはさだかではない)どちらにしても50年前の5月3日から8日の間の何日間、キャパがこのホテルに泊まったことだろう。いや写真を撮ったことは、紛れもない事実だ。
今は平和な風景だが、かつて岸壁には、軍事物質であふれていた。
この風景を撮る前に、ホテルの室内で4カットの写真、タイプライターを打つ記者を撮っている。床はモザイク模様の石の床だ。かつてマジェスティクの床は、石の床だった。しかし現在は修復され、木になっている。
1925年に完成したこのホテルは、行くたびかの大改修をほどこされている。現在の形は1995年からだ。
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