スタジオライティング プロの現場 その1
先日、ムービーのスタジオでスチール撮影をした。隣のスタジオでCMのセットが組まれ、その合間であるタレントの広告撮影だ。かつて広告では、ムービーとスチールは、時間も日にちもわかれていたしグラフィックのコンセプトが違うことさえあった。最近はこうやって、別にスタジオを取って同時進行の撮影が多い。
スチールのスタジオだと、最新の例えばオール電動になった、ファティフ(1m50x2mぐらいのボックスタイプの面光源」のような、手間いらずのバンクライトの設備もある。それだとメインライトの位置(正面、サイド)を選んで、TOPの光を使い、背景もスピーディにセットできる。
ムービーのスタジオだと、ストロボなどスチール用のセットをすべて持ち込まなければならない。最近の便利なスタジオしか使ったことがなければ、きっとパニックだろう。
スタジオ撮影は、昔から東京が盛んだった。自分でスタジオを持たないカメラマンが多かったせいもあるが、そういう経費は全部、カメラマンと関係ないところで処理されるのが普通だからだ。
雑誌などでどんなにギャラが安くても、スタジオではかなり贅沢なライティングをしても、指摘されることはほとんどなかった。(どうやら最近はそうでもなさそうだが)。
特に広告の撮影、タレントの撮影では、200%の確実性と、セッティングや撮影のスピード、状況変化のスピーディな対処のことを考えると、ストロボの数は多くなる傾向だ。
ストロボは壊れることもあるので、最低のギリギリの機材で撮ることは、時間の限られた、タレントの撮影では危険だ。
今回は、最終的には背景が合成されるので、バストアップと全身がライティングを変えずに撮れるようなセットにした。
ストロボは、ジェネレーター12台と、ヘッドを12灯、写真スタジオからアシスタント3名つきで借りた。
そのほか背景紙やポール、スタンドなども持込だ。かなり大掛かりだ。
ストロボ・ライティングの基本は、まずは光質をどうするかを決める。
●01ストロボ直 コンパクトストロボと同じような使いかた(トレペ1枚でディフューズをする直トレも含める)
●02ストロボ傘バウンズ ストロボの一番オーソドックスな方法。
●03ストロボ、ソフトボックスディフューズ(トレペ、シャ幕の透過拡散)BOXタイプ。
FATIF(ファティフ)ようなヘッドを4台しこんだバンクライトも含む。
●04大きなトレペやシャ幕によって、ストロボ光をディフューズ(たいてい多灯)
●05壁バウンズ
●06ストロボにグリッド(蜂の巣状のアタッチメントをつけ、ストロボ光をスポット状態にする)
●07、06と同じ考え方だが、ストロボに黒い筒をつけ、スポット状態にする。
ま、ざっとこんなものだろうか。
それからライティングだ。通常女性の場合、メイクで顔にメリハリをつけているので、正面ライトが多い。
男性はサイドライトが鉄則だ。ただ正面ライトは、化粧品や雑誌の表紙には向いていても、フラットになりすぎ、美しいだけで終わってしまうことが多い。
顔の化粧を撮るライティングとしてはベストでも雰囲気がでにくい。
人間の撮影の場合、ライティングの構造は、黒目を見ると良い。
そこには、顔に当たっているすべてのライトが写っているはずだ。
屋外の撮影でも、黒目を見ると、光の状態が一目瞭然だ。
今回、バストアップと全身を、同じライティングで撮るため、
かなり正面ぽい、サイドライトを選択した。
背景に紙バックを使っているが、明るい色だったので、トップからのライトでなりゆきにライティングすることにした。
光質は、(04)を選び、ストロボを8台つかって、直径2mぐらいの面光源になるように、
トレペ(トレシングペーパー)をカーテンのようにして、ディヒューズ(透過拡散)している。
トップの光は、モデルの背後と、背景の色バック(セットショップ)にも光があたるように、一直線に4灯ならべ、白いシャ幕でディフューズしている。
メインのライトは、8台。全体でひとつのライトになるように、集中して並べているわけだ。巨大な面光源のライトということになる。
モデルから見るとその光の位置は、カメラよりわずかに15度ぐらい横、少し高めになっているだろう。だからサイドライトといってもかなり正面ぽい。
女性の場合は、メイクをして顔にメリハリをつけているので、影があまりでないように、
正面付近のライティングが、美しく撮れるからだ。
今回のメインのトレペを、カメラの背後まで伸ばしたり、もしくはカメラの真後ろ全面に張れば、完全な正面ライティングになる。
トレペディフューズライティングは大きなものを撮ったり、一人ではなく、大人数の場合でも効果的だ。
ストロボは多ければ多いほどよいが、現実的には、最低2灯あれば作れるライティングだ。(その場合は傘バウンズにして、さらにトレペで透過させる)
デジタルの良いところは、バウンズやディフューズの微妙な色の変化を調整できることだ。
今回12台のストロボ本体と12灯のストロボ発光部(ヘッド)を使った。
今回のライティングの基本的は、面光源のサイド光8灯をメインに、
TOP少し逆目の面光源の4灯、のフラットな光の「2灯」ライティングだ。
ストロボ撮影のメリットは、なんといっても絞り込めることだ。
仕事の写真の最大の敵、ピントとブレを全く気にせずとれるということだ。
このライティングで、ストロボフル発光させれば、ISO100で、F45ぐらいはいくだろう。
今回はF11まで落として撮影している。その分閃光時間も短く、
動きのある写真でもブレることはない。(大型ストロボは閃光時間がながいので注意)
カメラはEOS1DsMark2だ。
現在、35mmデジタルカメラの最高峰だ。
しかしスタジオで使うには、中盤デジタルパック、フェーズ1(2200万画素)にはかなわない。
それは画質というより、スタジオで撮るときはパソコン直結で撮ることになるので、その転送速度が、倍ぐらいかかってしまうからだ。スムーズな撮影ができない。
今回は本番原稿用にRaw、そして現場の確認、それからセレクトようにJPEGと同時に撮っている。
いや、JPEGだけだったら問題ないが、Rawで撮ると、かなりゆっくり(2秒おき)ぐらいに撮らなければ、読み込みが間に合わず、止まってしまう。この点はまだまだ、プロが使うレベルにはなっていない。
スタジオで使うことをさほど想定していないのだろう。
デジタルになり、広告の現場では、ADと共に、画像を見ながら撮ったものをすぐにチェックする。
かつてだったら、ポラロイドがその役目をしていた。ポラと違って、デジタルは本番のあがりを見ながら進行することになる。広告のような共同制作には最適だ。
そのかわり、写真家の作家性を求められた場合は、デメリットでもある。
1DsM2でも画質は問題ない。
これからこのプロタイプのデジタルカメラはさらなる高画素化も必要だが、転送のスピードが最大の問題だろう。
やはりRawで撮りつつ、秒間2コマで、永遠と撮れれなくては、少なくとも50コマぐらいは休まず撮れるようにならなければ気ままに撮ることはできないだろう。
そして、以前にも述べたが、35mmのライカサイズのアスペクト比は、
スタジオの世界では絶対的に使いづらい。
このアルペクト比にこだわっている限り、スタジオ撮影やコマーシャルの現場で、
中盤デジタルカメラに勝つことはできないだろう。
ちょっと動きのあるものの縦位置、バストアップはライカ版アスペクト比では撮れない。
二人並べて撮るような場合は、絶望的だ。必要以上い天地を開けて撮るなんて気分が悪い。
●だから提案しているように、35mmレンズを最大に活用した新たなアスペクトカメラを開発するべきだ。
これから、ますます高級機は超画素化する。そのときに、このアスペクト比を守る意味はなにもない。
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Comments
はじめまして、初コメントです。
デジタルモノクロのあたりから拝見して写真について技法についてと色々勉強させてもらってます。この記事も詳細な解説で大変参考になります。
またうかがわせてもらいます。
Posted by: 門谷 | 2006.02.24 11:27 PM
僕のようにスタジオ経験があまりないカメラマンにとって、この記事はとても参考になりました。
ベトナムの広告写真は、今でもまだ「スタジオで撮りました」という感じの写真が多いように感じます。
Posted by: 大池 | 2006.02.19 10:13 PM
写真展、今日見させていただきました。
どの写真も素晴らしくて、あまり時間がなかったのですがしばらく見入ってしまいました。
また時間を作って、今度はゆっくり見に行きたいと思っています。
Posted by: ぼうしゃ | 2006.02.18 09:47 PM