地平線までの距離 Distance to the Horizon
Distance to the Horizon 地平線までの距離 スライドショー
●ロバート・フランクの写真集 「Americans」のなかに、
ルート66で撮った縦位置のモノクローム写真がある。
緩やかな起伏のある荒涼とした平原を、一直線に地平線まで続く荒れたアスファルトの道路。
そこに、かすれたセンターラインと光を反射して白くひかるタイヤのあと。嵐のまえぶれだろうか、地平線を黒い不穏な雲が覆いつくそうとしている。
写真家にとって、地平線とはカメラのアングル、どの高さから撮ったかという物理的な証拠なのだ。それは例えば、自分の身長に支配される、自然なそして宿命的な高さであったり、かつてロバート・キャパがひざをついたおきまりのローアングルだったり、もしくは何かの上に乗って撮ったのだと言う事実は、地平線を見ればひと目でわかる。
実は、地平線までは無限に遠いようでいて、地球上では計算上、地面から160cmのアングルだとすると、たった4.5キロさきにある。ということは、歩いてもほんの1時間でたどり着ける距離だ。もちろんその場所に行けば、また再び地平線は4.5キロ先に遠のいてしまうのだが。これは地球が平面ではなく球形であるということから導き出された計算上の距離なのだ。
実際は、地上には起伏があり、数百キロさきの山までもが見える。かつて、僕ははじめてカリフォルニアに行ったとき、ロケハン中、高いところから今いる場所を見下ろしたいと思った。あの前方の、いちぶの曇りもない山の斜面から撮りたいと思った。そしてクルマを飛ばした。ところが一時間近く走っても一向に山は近づいてこない。地図を見たらそのなだらかな山は100キロ以上もさきあったのだ。
地上、2.5cmのアングル。蟻の目というよりは、小さな亀の目のアングルぐらいだ。いってみればCameRaの目。不思議なことにほんの2.5cm地上から離れただけで、計算上地平線は500m先に存在する。地面が本当に平面だったらの話なのだが、思ったよりずっと遠くまで存在している。
地上2.5cmから見た世界は、スウィフトのガリバー旅行記の「巨人の国」の世界だ。ここに住んでいる巨大な人間たちは、そばで見れば生命体としてダイナミックに息づいていても、パースペクティブのさき、遠く離れてしまえば皆寂しげに、地平線に消えてしまう。
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