写真集のなかの有名人
写真集「あの日の彼、あの日の彼女」のなかには、何人かの有名人が写っている。前回のBlogでは、重信房子を紹介した。1968年9月12日のデモの最中、まだ無名時代の重信だ。さて、下の写真は、一ノ瀬泰造だ。一ノ瀬さんは、僕の大学のサークルのひとつ先輩。このときは、僕は18歳、一ノ瀬は19歳だと思う。学園祭のときのスナップだろう。なぜ学生服を着ているかといえば、このころの学生は、ちょっとしたイベントのときには洒落のつもりで、着てきたりしたものだ。入学式のときには、皆学生服だったような気がする。ぼくもジャケットを持っていなかった。1968年の学園紛争後は、体育会系の部員以外は学生服を着ることはなくなった。一ノ瀬は今は有名人だけれども、1999年の拙著「サイゴンの昼下がり」にかいた時は、ほんとに無名だった。その直後、映画「地雷を踏んだらさようなら」以降、ヒーローのようになっていった。この写真、19歳の一ノ瀬は、彼の本にでてくる、精悍なイメージはない。でも、18歳の僕にとっては、大人びて見え、少し怖かった。
1975年僕は、独立する直前、青山にあったビルの6階の一室を、下にあった現像屋さんのはからいで、格安で借りることができた。そのビルは後にウエンディーズがはいり、隣にガソリンスタンド、そして24時間スパー「ユアーズ」があった。僕の世代は青山「ユアーズ」は鮮明に記憶されていると思う。まるでアメリカのスパーのように、そこには輸入食料品があふれていた。なにより、夜中、ユアーズのドーナッツを食べたことを覚えている。この写真は僕の部屋から眺めた、青山通りとガソリンスタンドだ。有名人が車から降りてくるところを、皆が歓喜しながら見つめている。彼は車道にでようとして、学生達の列の長さに阻まれ、そして彼等のまなざしに照れてしまったのか、車から逃げ出すところだ。この写真を撮ったときは、誰だかわからなかった。これは昨年プリントしているときに気がついたのだが、たぶんダウンタウンブギウギバンドの宇崎竜童だろう。僕はダウンタウン(今では違うおわらいの名だ)をその年の冬に撮っているが、この人物が宇崎だというこはずっと気がつかなかった。
就職が決まらず、というかまったく就職することなんて考えいなくて、写真ばかり撮っていた。このころは車ばかりを撮っていたような気がする。僕の今回の写真集にも多くの車がでてくるが、時代は車を誰でも手に入れられる可能性が、はじまったときだったので、なによりも皆、女性までもが車に興味があった時代だ。だからたくさん車が写っているのは、僕の個人的趣味と言うより、時代の気分だったのだと思う。
この写真は表参道、モリハナエビルのしたあたり、今でもあるが、ポールスミスだったろうか、そこはかつてBIGIが入っていた。石組みの壁、その前に止まっているメルセデス。雨のが降っているのだろうか、すいてきてがついている。僕はたぶん対向車道に車でとまり、まるで張り込みカメラマンのように車から撮っている。雨が降っていたからか、車からおりないで、不精して撮ったのだと思う。と、突然なかから長髪の男がでてきた。BIGIのデザイナー菊池武夫だ。彼はショーケン(萩原健一)の「傷だらけ天使」なんかの衣装を担当した時代の寵児でもあった。
1972年、僕はガールフレンドの音楽仲間だった、A,Yと会った。これは新宿ルイードでのライブ後の記念写真だ。ぼけていて、(被写体ブレだろう)わかりずらいが、一番右にいるのが、A.Yだ。このころは彼女はこんな格好をしていた。LPを一枚発表し、ライブ活動をしていた。まだほとんど無名だ。この数年後、彼女はスーパースターになる。
●横木安良夫写真集 「あの日の彼、あの日の彼女」
teach your children 1967-1975
文・角田光代
写真集詳細
★2006年12月15日発売 アスコム 定価税込み ¥3,990
352ページ (写真324ページ) 大型本 モノクロダブルトーン ソフトカバー
アートディクレクション 原耕一
デザイン 渡邊隆雄 七郎 (トラウト)
★アマゾンにて購入できます。
天地21x24.5cm
●横木安良夫写真集「あの日の彼、あの日の彼女 1967-1975」文・角田光代詳細
●特装版
BlitzInternationalにて、ネット販売をしています。
●写真集に載っている写真のほとんどは、デジタルアーカイバルプリントとして販売しています。
●2007年1月19日~3月3日まで、オーチャード・ギャラリー・アート・フォト・サイト・名古屋で「Teach Your Children1967-1975}」あの日の彼、あの日の彼女展を開催します。
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