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2007.07.31

映画「欲望」BROW UP アントニオーニの死

イタリアの巨匠ミケランジェロ・アントニオーニが死んだ。94歳。昨日なくなったイングマール・ベルイマンが89歳だから、映画監督ってけっこう長生きなんだと思う。
アントニオーニといえば、なんといっても「欲望」だ。
邦題「欲望」は、本来は「BLOW UP」「引伸ばし」という意味だ。
売れっ子ファッションカメラマン(デヴィット・ヘミングス)は、オープンのロールスロイスに乗り、コマーシャルな欲望まるだしの仕事とは違う、自分の写真を撮るため、ざわざわと風の音がする人気のない広大な公園をさまよい歩き回っていた。そこである女優の密会に遭遇する。ふと繰り広げられる怪しい、情景。すぐに暗室に戻り、写真を部分伸ばし「BLOW UP」をする。そこに写っていたものは・・・・・。
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●僕はこの映画を、1967年か68年に一度見ている。たった一度見ただけだ。ビデオのない時代、映画とはたいてい一回見るものだったが、その分、見るときの集中度は、今とは比べ物にならない。だから結構細部を覚えている。
この映画は難解な映画だといわれた。いや実は、僕にとってはちっとも難解じゃなかったのだ。なぜなら、そのとき、僕は若く、その映画のすべてを受け入れていたので、当時たくさん見た映画のなかの強烈な一作だったというわけだ。
若かった僕ははじめから理解しようなんて思っていなかったし、サスペンス映画のような謎解きも期待することなく、ひたすらそのディテールにひきつけられていた。
この映画は当時の僕の回りもでも話題で、皆、見ていたし、一シーン、一シーンを熱く語り合った。
例えば、主人公の売れっ子ファッションカメラマンが、後に、日米ハーフモデル、マリーヘルビンの旦那、デビッド・ベーリーがモデルだとか、主人公のところに売り込み来たモデルにのしかかったシーンのモデルは、当時のスーパーモデル、ベルーシュカだったとか、ヤードバーズが出演したり、何かと若い僕たちに刺激的な映画だった。
そして何より、撮影シーンに僕たちはしびれた。主人公のハッセルブラッドの操作は今まで見たことのないようなかっこよさだった。野外ルーペファインダーに、ピントリング、巻上げを、右手の親指と人差し指の根本で挟み、シャッターを切るたびに、1回転・・・・・。そのすばやさ、もうそれのシーンを思い出すだけで、うっとりとした。
なにしろ、当時大学時代、ハッセルブラッドを持っているのは、同学年ではIだけ。夢の、夢の、また夢のカメラだった。初任給、月給3万円の時代に、確か28万円だった。今だったら、いくらするんだろう。もっとも僕らは、当時写真をやるなんて、まして日芸に入って写真をやっているなんて当時としては十分親に恵まれていたわけだから、ハッセルは無理でも、同じスクエアーフォーマット、昔、ハッセルブラッドをコピーしたところから始まった、6x6のゼンザブロニカを持っていた。僕のは、S2ブラック。ハッセルより一回り以上大きな、無骨なカメラだったが、その映画を思い出しながら、デヴィット・ヘミングスの真似をした。
しかし、巻き上げは、ハッセルのように、完全1回転ではなく、約三回点半。あくまで約なのだ。カチャ、シュ、カチャ、シュと巻き上げる、ハッセルと違い、ガチャン、グニャ、グニャ、グニャ、ガキ!。まるで違うし、なにより巻き上げのノブのクランクが小さく、ハッセルの真似をすると手が痛くなる。まあ、小さいだけではなく、止まる場所がいつも一定していなかったため、勢いアマって指がすれた。そのため、クランクにサックを差し込んで、厚みを増したりして、どうにか、指が痛くならないようにしたというわけだ。・・・・それで気分だけは、ハッセルというわけだ。
それから、ニコンで、モデルにまたがって撮る。これにもあこがれた。なかなかそんなことはできなくても、女の子をを撮るときは、気分だけでものしかかる。こんな撮影は、ずーと後になって、モデルにしたことはあったが、学生時代はそんなことはできなかった。
いやいや、映画「欲望」とはそのぐらい、当時の僕たちはあこがれた。ピントのずれた、邦題も、僕たちから見れば、すべてに欲望丸出しだった、世代にとって、それはまさしく「欲望」だった。
マジに、この映画を見て、写真家になったやつを僕は3人知っている。
Browup
横浜黄金町の、黄金町プロジェクトオフィスに飾ってあった、ビンテージのポスター。近くの映画館にあったものだとういう。写真は呼ぶのだ。3日の晩に訪れた。
●この日すぐに、アマゾンでDVDを注文した。以下、ちょっと支離滅裂独断に書く。
すぐに届き、8月4日の昼間に見た。ほぼ40年ぶりだった。かつて、映画は基本的には、一回見るものだった。もちろん例外的に、何度も見る映画もあるが。いまやビデオやDVDの時代、気に入った映画は繰り返してみるものだ。
68年に見たとしたら、39年前、僕はこの映画を一度だけ見た。それは、あまりにシチュエーションが当時の僕の興味に密着していたのか、きっとむさぼるように見たのだろう。だから、撮影シーンや、プリントシーンは、克明に覚えていた。あんがい忘れていたのは、主人公のスタジオが案外綺麗ではなく、その時代のポップシーンがとてもリアルなものとして描かれていた。そこに記憶がないのは、あの時代としては、特別なことじゃなかったからかもしれない。モデルたちのの衣装も、普通に存在していたもので、決して強烈ではなかった。
冒頭、主人公が、潜入撮影した、なんだろう、老人たちの宿舎?Camp、日本で言えば山谷のようなところかな、何とかCentreって読めるけど、そんなシーンから始まる。主人公は路上に乗り捨ててあった自分の、ロールスロイスのオープンカーに乗る。そして連絡は、無線。あの時代は、イギリスでも、まだそんなことがありえた時代だったのだと思うと、今ロールスロイスをオープンのまま路中していたら、瞬時に盗まれるだろう。鍵つきグローボックスに、ニコンFがほおりこまれているのも、今じゃリアリティがない。
この映画はシュールだと、言われているが、今見てもぜんぜんそんな感じがない。超現実というより、リアル、シュールというより、白日夢。それはラストシーンの、ヒッピー達、前衛演劇、平和運動家?が演じる、ボールのないテニスゲームが、映画全体を象徴しているようで、その解釈に自由度があることが、そしてその映画を分析したくなることが、難解に見せているだけだ。僕はとてもシンプルな映画だと思った。
冒頭でも、小さな車に大勢のヒッピーのような、若者が乗り込み、歓声をあげ町を走り回る。唐突に見えても、あの時代だったら特別なことじゃない。天井桟敷や、映画「機会仕掛けのオレンジ」と同じように、あの時代の若者があこがれていた狂気が、日常として存在しているだけだ。現代の狂気は日常への回帰かもしれないが、あの頃の狂気は、確実に、前衛に向かっていた。いずれにしても、管理社会に対しての反抗であるには違いないが。
この映画を見ると、あの時代の自由さは、商業主義に完全に牛耳られていない、文化がふんだんにあったことだ。今のように、ファッションも、音楽も、映画もすっかり商業主義のなかに収まっている状況とは、何かが違っているのだろう。まあ、そんなことはどうでもよくて、人間の記憶は、特にこの映画は、友人達と何度も語ったせいか、細部はかなり思い込みや、違いがあった。公園で密会している男女、その女は、思い込んでいたように、女優なんかじゃなく、モデルのような華奢な体の女性だった。
撮影シーン、主人公がのしかかってニコンFで撮っている場面は、ベルーシカとの関係が、ちょっと記憶違いだった。そして主人公のいらいらとモデルに対する態度、うーん、今じゃ考えられないけど、いやヨーロッパだったら今でもありえるだろう、ファッションカメラマンの地位が高いので、あの横暴さは。昔の日本のカメラマンもあのぐらい態度のでかい人はいたような気がする。今でもそうだけど、写真のためのファッションモデルは、皆10代なかばから20歳ぐらいまでだ。新人モデルを発掘するのは、カメラマンの仕事でもあるからだ。
映画に挿入される、写真がけっこういい。誰が撮っているのだろう。彼の潜入写真のリングファイルのコンポジットもちょっとかっこうよかった。ファッションカメラマンだけではなく、若いドキュメンタリーのカメラマンにも影響をあたえていたと確信した。見ていて、絶対一ノ瀬泰造も見ているなと思えた。
ハッセルも、ニコンもモーターではない。その使い方が、かっこいい。でもそれでピント来るのかよ、とか、ストロボもつかわず、それじゃブレちゃうよと、実際の撮影じゃありえないこともあって、やっぱ写真はカッコウかなと思った。写真のこういう暴力性は、今ややさしい時代、どこか忘れ去られているような気がする。
写真好きは必見!!!星★★★★★

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