一ノ瀬泰造戦場より愛をこめて!
一ノ瀬泰造のお母さん、信子さんから新作、「一ノ瀬泰造戦場より愛を込めて!」が届いた。紫色の横長の分厚いコンパクトな写真集。泰造がカンボジアで行方不明になった1977年、日本の外務省からフィルムが梱包された荷物が届いた。白黒フィルム376本、カラーフィルム45本、キックボクシングを撮った6本、使用残のカラーフィルム54本。
――私はこの時の感激を一生忘れないだろう。当時の私の日記をみると、この日から3日間空白になっている。何しろ、それからというものはネガを光に透かしてながめて終日過ごしているのだから。――(一ノ瀬信子)
まだそのときは、泰造の死を信子さんは確認していない。そのときの興奮が、いっさつにまとまっているのが本書だ。モノクロのコンタクトプリンと再現した写真と、あらたに発表する、その隙間に存在していた多くの写真。
キャパのコンタクトプリントが興味深かったように、やはり一ノ瀬のコンタクトも、一枚の写真とは違ったメッセージがある。写真とはなんと不思議なものなのだろう。一ノ瀬の全部のコンタクトプリントをみてみたくなった。もちろん一ノ瀬は戦争カメラマンだけれども、戦闘ではない、平和の時間の一ノ瀬の写真もやはり魅力的だ。1973年3月3日のサイゴン動物園での白いアオザイ姿の女学生たちのスナップ。たしかカラーで撮った、ずぶぬれの、そして下着の透けた写真を一ノ瀬は撮っている。僕はあの写真が大好きだった。そして今回その前後の写真が発表されている。そして恋人だろうか、レ・フォンを撮った幾つかの写真。みているとなんか胸がジンとしてしまう。今彼女はどこにいるのだろうか。
サイゴン、戦争博物館に、ベトナム戦争で活躍した多くカメラマンの作品とポートレイトが展示してある。そこにひときは目立つ、銃弾の貫通したニコンFの写真がある。それこそ一ノ瀬泰造のカメラだ。本当に不思議だ。いとも美しくニコンはひしゃげている。そしてこのときは、一ノ瀬は死ななかった。
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